プリ・ウォー・ボーカルの見分け方
プリ・ウォー(注1)のボーカルが最高だ、と盲目的に信じている人が多くいます。
市場価格も現在の新品より高い場合が多いです。
もしも、あなたが、幸運にも「プリ・ウォー・ボーカル」を発見し、購入しようというときに、
そのボーカルが第二次世界大戦前のものであることを確かめましょう。
プリ・ウォーとは決して湾岸戦争前を指しているわけではありません。
以下は、ハンス・メーニッヒ(注2)の提案していた、プリ・ウォー・ボーカルの見分け方を
弟子のアルビン・スイニー(注3)が文書化したものです。
このページは解からない人にはさっぱり解からないと思うので、注釈をつけました。
プリ・ウォー・ボーカルの見分け方
見分け方 | 備考 | |
1 | 重さ。プリ・ウォー・ボーカルは、戦後のものより太く肉厚で、合金の密度も高く、戦後のものより0.5~1.0 oz重い。(14~30g) | |
2 | ヘッケル・ロゴは、プリ・ウォー・ボーカルでは、管へ平行に刻印されています。 (現在のボーカルでは管に対してらせん状に書かれている) | |
3 | メッキは、普通に使い古された状態か、または、斑です。 新しく見える古いボーカルの場合、きずや窪み修理の後を隠すために、しばしば再メッキされていることが多い。 | 古いボーカルの場合、ボーカル内部からの腐食で、メッキ表面にポツポツと黒ずんだ点があることが多い |
4 | 長さ番号は、プリ・ウォー・ボーカルでは、(戦後のものより)もっと楽器への差込口に近いほうに刻印されている。 | |
5 | 王冠マークは、ヘッケルの文字の前後に刻印されている 例 XヘッケルX | |
6 | CC印は、大概、ヘッケルの文字とは逆方向に書かれている。 例、ヘッケル)) あるいは )ヘッケル | |
7 | ボーカル・ニップル(ウイスパー・キーで開閉する穴): 4000番代から5000番代早期のボーカル・ニップルの形は平らで、高さも高くありません。ウイスパー・キーは、この頃、まだ一般的ではなかった。 | いわゆるオールドヘッケルを現代で使う(または使っている)場合、ウイスパーキーとHigh-Dキーを後付けしてあるものがほとんどです。 |
8 | 5000番代以降では、ボーカル・ニップルの形は、マッシュルーム形状になりました | |
9 | ボーカル・ニップルは、6200番代以降、高さが高くなり、時計回りに5度の角度を持って取り付けられている。 | |
10 | ヘッケル・ロゴは、現在のようなカーブした部分ではなく、リード取り付け部から、3インチ位の位置に刻印されている。 |
一般的な古いボーカル購入時の注意点
注意点 | 備考 | |
1 | ボーカルの割れ、ひびのチェック。ボーカルを水につけて、穴の部分を塞ぎ、息を通してみる。割れ、ひびがあれば、空気の泡が漏れてきます。 | |
2 | ボーカル・ニップルの継ぎ目の漏れ。1と同様に、水中でのチェックで漏れを見つけられます。 | |
3 | ボーカルティップ(リードを取り付ける先端部)の割れ目。ボーカルは一枚の板をたたいて丸めて、継ぎ目をハンダづけされていて、大概の割れは、ハンダの継ぎ目が唾液の酸によって侵食されて引き起こされる。 | |
4 | ボーカルティップの磨耗は、リードとの摩擦で引き起こされる | |
5 | 管にへこみ、くぼみがないこと。音程、イントネーションの悪化につながります。 | |
6 | 管の丸みのチェック。もし、平らにつぶれて(もしくはへこんで)いる場合、音程、イントネーションの悪化につながります。 | |
7 | 正しい演奏ポジションを取れるかどうか、ボーカルの角度をチェックします。角度が合わないボーカルを曲げて使う人がいますが、これは、ボーカルの割れにつながります。 | |
8 | ボーカルの楽器への差込部分には、金属のリングがついています。もしリングがない、もしくは、一様でなければ、そのボーカルは削られたか、短くされた可能性があります。 | オケの標準ピッチがあがるにつれ、ピッチをあわせようとして、短く切られたボーカルが結構あります |
9 | ボーカルの継ぎ修正。古いボーカルには、割れ、ひびを直したものも多いのですが、広い面積のやわらかい継ぎ板はとてもよくありません。重いつぎ布は、ボーカルのレゾナンスを損なうでしょう。(メーニッヒ氏は、銀のハンダの針金つぎを推奨していた) | |
10 | ボーカルに刻印されている長さ番号だけで判断しないこと。多くの古いボーカルは真中のEとFのピッチを上げるために、短く切られています。 常用しているボーカルと、買おうとしている古いボーカルをリード用の真鍮のワイヤー等を使って長さを計ることをお勧めします。 |
注釈
用語 | 説明 | |
1 | プリ・ウォー・ボーカル | おおむね、4000から9000番代のヘッケルについていたボーカルで、現在のボーカルでいうと、BBとCCの中間のボアを持っていたと言われています。このボーカルが最高だと思っている人が多くいます。 |
2 | ハンス・メーニッヒ | 著名な木管楽器リペア職人で、フィラデルフィア管弦楽団のメンバーとの協力で、トーンホールにアンダーカットを施し、楽器のチューニングの技術を確立した。 ハンス・メーニッヒは、第二次世界大戦前のヘッケルのボーカルを、新品または新品同様の状態で、12本所有していました。 それは、ヘッケル・バスーン4000番代~9000番代までのそれぞれのヴィンテージから2本ずつの実物を持っていました。(各1000番代毎に2本ずつ) 彼は、彼の店で修理されていたヘッケル・バスーンをテストするために、しばしばこれらのボーカルを使っていました。 |
3 | アルビン・スイニー | ハンス・メーニッヒの弟子。 師匠であるメーニッヒの死により、上記のボーカルコレクションを受け継ぎました。 これらの本物のプリ・ウォー・ボーカルが手元にあることで、その特徴や、真贋評価を確実に出来ます。 私の修理経歴で、「プリ・ウォー・ボーカル」の多くのバリエーションを見て、プリ・ウォーと言われているボーカルの多くが、実際は第二次世界大戦後のものであることが判りました。 また、金属製品ですから、多くの修正・リペアが、60から90歳に及ぶボーカルで 起こったかもしれません。 |